
オウンドメディアの CMS を選ぶとき、新しく出た EmDash を候補に入れる理由はあるのか。速さ、止まらなさ、安全、AI での運用の 4 つの軸で WordPress と並べ、このメディア自体を EmDash で動かして確かめたことと、記事の質で成果が決まる点は変わらないこと、WordPress のままでよい条件まで整理します。
この記事の目次
オウンドメディア(自社で運営する記事サイト)を立ち上げるとき、CMS(記事を書いて公開する仕組み)はまず WordPress が候補に挙がります。そこへ 2026年9月に 1.0 になった EmDash が加わりました。新しく出たものを、わざわざ候補に入れる理由はあるのか。この記事はその疑問に答えます。
答えを先に書きます。候補に入れる理由は、速さ、止まらなさ、安全、AI での運用の 4 つで、仕組みそのものが WordPress と違うことです。一方で、記事の質と更新頻度と読者理解が成果を決める点は、どちらを選んでも変わりません。WordPress のままでよい会社もあります。その条件も最後に書きます。
比べるのは 4 つの軸:どれも記事サイトの運用の手間に直結する
メディアの CMS を比べるとき、管理画面の使いやすさより先に見ておきたいのが、次の 4 つです。どれも記事が増え、読まれるようになったあとで効いてきます。
軸 | WordPress | EmDash |
|---|---|---|
速さ | 契約したサーバーでページを組み立てる。速さはサーバーとキャッシュの設定しだい | Cloudflare の基盤で組み立てて返す。サーバーの手配は要らない |
止まらなさ | サーバーの OS や PHP の更新と、アクセス集中への備えが要る | 自前のサーバーを持たない。アクセスが無ければ縮み、増えれば広がる |
安全 | プラグイン(追加機能)が本体と同じ権限で動く | 追加機能は隔離された箱の中で、承認した権限だけを使う |
AI での運用 | 公式の MCP Adapter(別プラグイン)を入れて組む | AI からの操作口が標準で付いている |
EmDash は Cloudflare が中心になって開発している、無料のオープンソースの CMS です。この記事では、メディアを運営する立場から 4 つの軸を順に見ていきます。
このメディア自体が EmDash で動いている:確かめたこと
Nowever の会社サイト(nowever.co)と、この EmDashラボは EmDash で動いています。版は 0.30 系で、Cloudflare の上に載せています。2026年10月15日に、外から見て確かめられることを確かめました。
- ページの返事の速さ。 東京近郊の回線から、トップ、EmDashラボの一覧、サービス紹介の 3 ページを 5 回ずつ取得しました。HTML を受け取り始めるまでの時間は約 0.04〜0.22 秒でした。
- 中で何が動いているか。 応答には EmDash の処理の内訳(初期化、追加機能の状態確認、ページの組み立て)が記録されていました。一覧ページの組み立ては約 0.06 秒でした。
- 表示の速さ。 Google の計測ツール Lighthouse(PageSpeed Insights と同じ計測エンジン)で、スマホ想定の計測を行いました。サーバーの返事は 0.03〜0.08 秒と短い一方、点数はトップ 62 点、一覧 67 点にとどまりました。同じ日の別の時間帯に同じ設定で測った回では、トップ 97 点、一覧 100 点でした。1 回ずつの計測では、点数がこれだけ揺れます。
最後の結果は、正直に書いておきたい点です。点数が低かった回の診断で改善余地として挙がったのは、トップの背景動画(約 4.6MB)、アクセス解析のタグ、表示前に読み込む CSS でした。CMS で速くなるのは「サーバーの返事」までです。画像や動画、外部のタグの重さは、どの CMS を選んでも作り方で決まります。記事が 300 本に増えても速いかは、記事が増えても速いかで詳しく計測しています。
記事づくりも EmDash の上で回しています。この記事を含む EmDashラボの記事は、AI エージェントと人で下書きを作り、コマンドで CMS に下書きとして入れています。公開するかは人が決めます。
速さと止まらなさ:サーバーを持たないと何が変わるか
WordPress は、レンタルサーバーなどに置いたプログラムが、ページを開かれるたびに組み立てて返します。速さは、サーバーの性能とキャッシュ(作ったページの使い回し)の設定で決まります。記事が当たってアクセスが急に増えると、契約したサーバーの容量が上限になります。
EmDash は Cloudflare の Workers という仕組みの上で動きます。サーバーを借りる契約や、OS・PHP の更新作業がありません。Cloudflare は「リクエストが無ければ 0 まで縮む」と説明しており、アクセスに合わせて処理の量が伸び縮みします。
費用は Cloudflare の料金で決まります。無料プランは 1 日 10 万リクエストまでで、上限を超えると、日本時間の翌朝 9 時(UTC 0 時)まで、EmDash が返すページがエラーになります。Cloudflare の有料プラン(Workers Paid)は月 5 ドルからで、月 1,000 万リクエストと 3,000 万 CPU ミリ秒(処理に使った時間)を含みます。超えた分は 100 万リクエストごとに 0.30 ドル、100 万 CPU ミリ秒ごとに 0.02 ドルです。ページビューとリクエストの数え方、アクセス急増のときの試算は、アクセスが急に増えたら費用はどうなるかに譲ります。
ただし「止まらない」は「何があっても止まらない」ではありません。サイトは Cloudflare の基盤に乗るので、Cloudflare 側で障害が起きれば影響を受けます。サーバーの面倒を自分で見なくてよくなる代わりに、基盤を 1 社に預けることになります。
安全:追加機能を隔離すると、改ざんの入口が狭くなる
Cloudflare は 2026年4月の EmDash の発表で、WordPress のセキュリティ問題の 96% がプラグイン由来だという Patchstack の調査を引いています。Patchstack の 2026 年版の報告でも、2025 年に見つかった弱点の 91% がプラグイン由来でした。WordPress のプラグインは、サイトのデータベースやファイルに直接触れられます。ひとつに穴があると、記事の改ざんや、検索結果を乗っ取るスパムの埋め込みにつながります。
EmDash では、追加機能(WordPress のプラグインにあたるもの)を隔離された箱の中で動かします。記事・画像・ユーザー・外部への通信には、追加機能が申告し、管理者が承認した範囲でしか触れません。メディアの運営で起きがちな被害と、この仕組みがどこまで防ぐかは、SEO スパム改ざんと追加機能の隔離で詳しく扱います。
条件が 2 つあります。
- 隔離の仕組みを Cloudflare で使うには、有料プランが要ります。 公式ドキュメントで、追加機能を箱に入れる仕組みは有料プランが前提と明記されています。nowever.co も有料プランで動かしています。
- 追加機能の数はまだ少ない。 メディアでよく使う WordPress のプラグインが EmDash でどうなるかは、メディアに要る機能のチェックリストで 1 つずつ確かめています。
AI での運用:記事を作る・直す作業を任せやすい
EmDash には、AI の助手(エージェント)から CMS を操作するための入口(MCP サーバー)が標準で付いています。下書きの作成、記事の修正、画像の登録、公開版と下書きの比較を、会話で頼めます。AI にできることは、つないだ人の役割の範囲までです。たとえば「寄稿者」の権限でつなげば、下書きは作れても公開はできません。
WordPress でも、2026年2月に公式の MCP Adapter が発表されました。こちらは別のプラグインとして入れる形です。AI で運用できるかどうかより、最初から組み込まれているか、追加で組むかの違いです。
この EmDashラボの制作の流れは、AI エージェントと進める記事制作でそのまま公開しています。複数の書き手と権限、レビュー、予約公開は書き手が増えたときの権限とレビューで試しました。AI 検索に記事がどう読まれるかはAI 検索と記事のデータで扱います。
変わらないこと:成果を決めるのは記事と読者理解
CMS を替えても、メディアの成果を決めるものは変わりません。
- 誰の、どんな疑問に答える記事か。 読者像が曖昧なら、速いサイトでも読まれません。
- 書き続けられる体制か。 更新が止まったメディアは、CMS に関係なく弱くなります。
- 記事から相談につながる道があるか。 記事の末尾や関連記事から、問い合わせまでの道筋を設計する必要があります。
EmDash が減らすのは、サーバーの保守、プラグインの更新と事故、記事づくりの手作業です。浮いた時間を記事と読者理解に回せるかどうかで、選んだ意味が決まります。記事から問い合わせへの導線は、記事から問い合わせにつなぐ設計で扱います。
正直に書くと:WordPress のままでよい条件もある
次のどれかに当てはまるなら、今は WordPress のままでよいと考えます。
- 特定のプラグインに業務が乗っている。 会員機能、有料記事、細かな広告配信など、EmDash にまだ同等の追加機能がないものです。
- 今の WordPress が安定して回っている。 保守の担当と費用が確保でき、改ざんや表示の遅さに困っていないなら、急いで移す理由は弱くなります。
- 編集画面に強いこだわりがある。 EmDash の編集画面は発展途上で、WordPress に慣れた書き手は違いを感じます。
- 基盤を Cloudflare に寄せたくない。 EmDash は Node.js のサーバーでも動きますが、この記事で書いた利点の多くは Cloudflare の上で動かす前提です。
逆に、これからメディアを立ち上げる会社や、プラグインの更新と保守の負担に困っている会社は、候補に入れて比べる価値があります。今移すか、一部だけ移すか、待つかの判断と費用感は、WordPress のメディアを今移すか、待つかに整理しました。
まずは、今のメディアで「困っていること」がどの軸にあたるかを書き出してみてください。比べ方の相談は、EmDashでつくるWebサイト制作から受け付けています。
参考(一次情報)
- Introducing EmDash — the spiritual successor to WordPress that solves plugin security(Cloudflare Blog、2026年4月1日:サーバーレスで 0 まで縮む設計、WordPress の 40%、プラグイン由来 96%(Patchstack)の引用)https://blog.cloudflare.com/emdash-wordpress/
- EmDash 1.0: the stable CMS with a secure plugin registry(Cloudflare Blog、2026年9月28日)https://blog.cloudflare.com/emdash-cms-plugin-registry/
- Configure the plugin sandbox(EmDash 公式ドキュメント:追加機能の隔離と有料プランの要件)https://docs.emdashcms.com/deployment/plugin-sandbox/
- AI Tools(EmDash 公式ドキュメント:MCP サーバーと役割ごとの権限)https://docs.emdashcms.com/guides/ai-tools/
- Workers pricing(Cloudflare 公式ドキュメント:無料プランと有料プランの上限と料金)https://developers.cloudflare.com/workers/platform/pricing/
- From Abilities to AI Agents: Introducing the WordPress MCP Adapter(WordPress Developer Blog、2026年2月4日)https://developer.wordpress.org/news/2026/02/from-abilities-to-ai-agents-introducing-the-wordpress-mcp-adapter/
- State of WordPress Security in 2026(Patchstack、2026年2月25日更新:2025 年の弱点の 91% がプラグイン)https://www.patchstack.com/whitepaper/state-of-wordpress-security-in-2026/
- nowever.co の応答と Lighthouse の計測(Nowever による検証、2026年10月15日。記録は本記事の制作ノートに保存)


