
出荷件数が2倍になる繁忙期。倉庫の人員配置と増員を決める前に、何を見直す?
この記事の目次全8章
繁忙期の出荷件数が2倍になっても、必要な人員がそのまま2倍になるとは限りません。1件あたりの商品点数、同梱やギフト対応、注文が集中する時間、工程間の待ち時間によって、実際の作業量は大きく変わるからです。
増員を考えるときは、出荷件数だけでなく、受注から集荷までの各工程に何分必要かを時間帯別に見ます。この記事を読むと、増員が必要な工程・時間帯・条件を切り分けて判断できるようになります。増員と作業改善を切り離さず、安全と品質を保てる範囲で準備を進めましょう。

出荷件数だけでなく、注文の内容、工程ごとの作業量、待ち時間、同時に使える設備を分けて見ると、増員が必要な場所と時間帯を見極めやすくなります。
出荷が2倍なら、人手も2倍必要?
1件の出荷でも、単品注文と複数商品を集める注文ではピッキング時間が異なります。ギフト包装、卸売向けのケース出荷、欠品の照会などが加われば、検品や梱包にも追加時間が必要です。さらに、同じ件数でも一日を通じて均等に発生する場合と、集荷前の数時間に集中する場合では必要な配置が変わります。
日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の物流現場改善に関する記事でも、ピッキングや包装、出荷など、つながった作業全体を対象とする改善が扱われています。人数を先に決めるのではなく、工程を通して作業量と停滞を捉えることが出発点です。
増員を考えるときに押さえたい5つの用語
- 作業量(分):対象の注文を処理するのに必要な時間の合計。「何分の仕事があるか」を表します。
- 実働可能時間:勤務時間から休憩や朝礼、引き継ぎ、教育、担当外業務などを除いた、その工程に使える時間です。
- 処理能力(分):配置人数×1人の実働可能時間。3人×150分なら450分で、これを工程別・時間帯別の作業量(分)と突き合わせます。
- 滞留:注文や荷物が次の工程へ進めず待っている状態。作業時間と、資材や設備などを待つ時間は分けて見ます。
- 同時処理能力:人数だけでなく、作業台や端末、通路の広さなども踏まえ、安全に同時処理できる上限です。
計算は「時間帯別の注文数×注文種類別の工程時間」を基本にします。たとえば、標準注文、複数商品注文、ギフト注文を分け、ピッキングと梱包・検品・送り状発行の必要時間をそれぞれ算出します。返品や変更対応に使う時間も、偶発的な雑務ではなく、通常出荷とは分けて集計したうえで作業量に含めます。
その結果を、習熟した担当者の処理能力(人数×実働可能時間)と比べます。ただし、計算上の時間が足りていても、特定の時間だけ梱包台が埋まるなら出荷は遅れます。日単位の合計だけでなく、工程別・時間帯別に不足を見ることが重要です。
何時に、どの作業で荷物がたまっている?

処理時間(青)と待ち時間(緑)を工程別・時間帯別に並べると、どの工程がいつ待っていたかが見えます。梱包の待ちが長く続いていれば、ピッキングを速めても出荷は早まりません。
増員先を決めるには、出荷指示が倉庫に投入された時刻、ピッキングと梱包の開始・終了、送り状発行、出荷準備完了を記録します。システムの時刻情報がなければ、滞留しやすい時間帯だけ手書きで記録しても構いません。JILSの『物流現場改善推進のための手引書』(2018年改定版)も参考に、現状を観察してから改善箇所を絞ります。
処理時間は、担当者が実際にピッキングや梱包をしていた時間です。待ち時間は、補充、作業台、端末、承認、次工程などが空くまで進めなかった時間です。両者を混ぜると、人の作業が遅いのか、進めない条件があるのかを判別できません。
| 記録するもの | 観察するときのポイント |
|---|---|
| 時間帯と注文種類 | 注文が集中する時間と、単品・複数商品・ギフトなどの内訳をそろえて記録する |
| 各工程で待つ件数 | 同じ間隔で数え、増え続けているか、締め前に減っているかを見る |
| 実際の処理時間 | 作業を始めてから終えるまでのうち、手を動かしていた時間を測る |
| 待ち時間と原因 | 補充、探索、設備、承認など、進めなかった理由を併記する |
| 判断者と連絡先 | 記録を見て配置変更を決める担当者と連絡先を、記録用紙の欄外に明記する |
注文の一斉投入後に滞留が増えても、社内の出荷締め時間より前に減り、後工程も安定しているなら、一時的な波である可能性があります。投入時刻の調整や短時間の再配置で収まるかを見ます。
一方、数えるたびに滞留が増え、集荷に向けて解消しない場合は対処が必要です。ピッキングの滞留が減る一方で梱包の滞留が増えていれば、問題が解消したのではなく、制約が後工程へ移ったと考えられます。顧客向けの注文締め、倉庫への出荷指示、社内締め、出荷準備完了、配送会社への引き渡しは、それぞれ別の時刻として管理します。
ピッキングが遅いのは、歩く距離のせい?

ピッキング時間を一括で見るのではなく、遅れの原因を分けてから一つずつ変更を試すと、改善の効果を見極めやすくなります。
ピッキング開始から完了までを一括して計測するだけでは、増員すべきか判断できません。移動、商品の探索、補充待ち、通路の混雑、誤ピックの修正に分け、どこに時間を使っているかを観察します。
棚を動かす前に、よく出る商品と一緒に注文される商品も調べましょう。出荷頻度だけで並べ替えると、一つの注文を集めるために行き来が増える場合があります。棚番号の変更を現場の表示とシステムの両方へ反映し、変更後に誰が点検するかまで決めてから試します。
改善は、次の3段階で小さく試します。
- 遅れの内訳を観察する
頻出商品への移動時間、棚表示を探す時間、棚が空いたときの補充待ち、台車同士の混雑、修正作業を分けて記録します。注文種類や時間帯によって原因が違う場合も分けます。
- 原因を一つに絞り、対応する変更を一つだけ試す
移動が長ければ、安全な範囲で頻出商品の配置を変えます。探索が多ければ棚表示を分かりやすくし、補充待ちが多ければ繁忙時間前の補充と補充担当の指定を試します。混雑が原因なら、人を増やす前に動線や作業開始時刻を見直します。
- 時間、誤り、安全性を一緒に確認する
変更前後の所要時間だけでなく、誤ピック、修正、通路の交錯、身体負担も見ます。複数注文をまとめて集める方法は、注文の識別と分離を保てる場合に限って試します。
頻出する標準商品に適した方法が、割れ物やギフトなどにも適するとは限りません。重量物を扱う配置変更では、厚生労働省の腰痛予防対策(陸上貨物運送事業向け教材)も参考に、運搬距離、荷物の重さ、持ち上げ方、配置変更時の教育を含めて、安全な動線を優先します。この教材では、人力だけで常時扱う重量の目安を、満18歳以上の男性で体重のおおむね40%以下、女性で24%以下としています。重い頻出商品を手前に寄せるときは、この目安と台車の使用もあわせて決めます。
梱包待ちを減らすには、何を先にそろえる?
梱包待ちが増えたら、作業者や荷物が何を待っていたかを記録し、時間帯ごとの待ち時間を原因別に合計します。設備や資材による待ちが長ければ、人員より先にその制約を解消します。たとえば、梱包台1台に同時に立てるのは1人が基本です。3人目を入れるなら、台と端末を1組増やすか、送り状発行を別の端末に分けるかを先に決めます。
増員前にそろえる梱包資源
作業台と通路
追加担当者が使える台と、安全に移動できる空間を確保します。
端末・プリンター・スキャナー・はかり
必要な機器が同時に使えるだけの台数をそろえます。
梱包資材
必要量を事前配置し、補充担当を決めます。
仮置き場所
梱包前後の荷物を識別して置ける場所を確保します。
検品
処理量に見合う検品担当を配置します。
人を増やすだけでは梱包能力は上がりません
作業台、機器、資材、仮置き場所、安全な通路、検品担当のどれかが不足すると、追加担当者にも待ちが生じます。待ち時間が最も長い制約を直し、同時に作業できる状態を整えてください。
返品や急な変更で、出荷が止まっていない?
返品、問い合わせ、住所変更、欠品、キャンセルは、通常工程を中断させる作業です。受付時刻、処理時間、緊急度、注文の進行段階を記録し、通常出荷とは分けて集計します。
例外対応で決めておく5つの要素
受付窓口
共有の受付リストか決まった連絡先に集め、現場への直接依頼を避けます。
記録担当
注文番号、依頼内容、受付時刻、緊急度、必要な判断を一つの記録へ残します。
変更受付の締切
内容物や届け先を変更できる最終地点を定めます。たとえば「梱包開始後の変更は翌日出荷として受け付ける」のように、工程名と扱いで決めると現場で迷いません。
承認者
キャンセル、代替品、欠品処理、優先順位変更を判断する役割を明確にします。
緊急度分類
集荷前に処理すべき案件と、決めた時間にまとめて処理できる案件を分けます。
変更受付の締切や承認範囲、顧客への回答期限は各社で異なります。現場の規程に従い、後で処理できる案件が通常出荷へ都度割り込まない運用にします。集計した例外対応の時間は、増員の試算で通常出荷とは別の行として加えます。
増員するなら、何人をどこに配置する?

応援(図では追加支援)の要否は、必要作業時間だけでなく、待ちの削減余地、習熟した人員の再配置、作業台や端末などの利用条件を合わせて判断します。
不足は一日の総人数ではなく、「13時〜16時の梱包」のように工程と時間帯を指定して捉えます。
増員判断は3段階で進める
待ち時間と手戻りを減らし、習熟した社内人員を再配置し、それでも残る工程別・時間帯別の不足へ応援を充てます。
次は13時〜16時の説明用試算です。標準注文80件、複数商品注文30件、ギフト注文10件とし、習熟した担当者1人の実働可能時間を150分と仮定します。既存配置はピッキング4人、梱包2人です。梱包台は13時〜16時の180分を通して使えるものとし、1台あたり180分の処理能力とします。梱包の工程時間(3分・5分・8分)は現場で計測した値で、その中に資材を取りに行く待ちが合計20分含まれていたものとします。処理時間と待ち時間を分けて記録していれば、このように待ちだけを取り出して削減できます。例外対応の時間は、この試算では省いています。
| 項目 | 説明用の前提・計算 | 結果・判断 |
|---|---|---|
| 注文構成 | 標準80件、複数商品30件、ギフト10件 | 合計120件 |
| ピッキング | 80×2.5分+30×4分+10×5分 | 必要370分 |
| 梱包・検品・送り状 | 80×3分+30×5分+10×8分 | 必要470分 |
| 待ちの削減 | 資材取得の待ち20分を事前配置で削減 | 必要450分 |
| 社内再配置 | 習熟したピッキング担当1人を梱包へ移す | ピッキング3人×150分=450分、梱包3人×150分=450分 |
| 同時処理能力 | 梱包台2台×180分=360分、3台×180分=540分。3台目の機器と安全な作業環境をそろえる | 計算上は処理可能。ばらつきや欠勤への余裕は別に見る |
この試算では、資材の事前配置と社内再配置で計算上の必要時間を満たせます。ただし、梱包は処理能力450分に対して必要450分で、時間の余裕がありません。注文内容のばらつきや欠勤も見込み、試行で処理量を確かめたうえで応援の要否を判断します。実際には、注文構成、工程時間、技能、休憩、例外作業、設備、集荷時刻を現場の記録へ置き換えて判断します。
安全や品質を削って計算を合わせない
休憩、品質確認、教育、監督、安全な移動は計画の前提です。これらを省いて実働可能時間を増やしたり、設備や作業場所が足りないまま人だけを増やしたりしてはいけません。
人員確保の方法ごとに決めておく条件
作業改善
待ちや手戻りを減らし、制約が次工程へ移っていないかを見ます。
時間外勤務
36協定の範囲と上限(原則として月45時間・年360時間)、疲労と休憩の確保、社内の申請手続きを点検します。繁忙期だけ特別条項に頼る運用は避けます。
社内再配置
応援者の技能と、送り出し元の工程が手薄にならないかを見ます。
短期雇用者
雇入れ時の安全衛生教育(雇用期間や雇用形態を問わず必要です)、担当範囲、質問先、使える設備、契約条件をそろえます。
派遣による支援
業務範囲、安全教育、監督分担を派遣元と決めます。雇用期間が30日以内の日雇派遣は原則禁止で、例外は60歳以上や昼間学生などに限られます(厚生労働省の改正労働者派遣法Q&A)。数週間だけの支援は、直接雇用や契約期間の設計を含めて派遣会社に早めに相談します。
勤務時間や時間外労働は厚生労働省の労働時間・休日と36協定の指針に関する解説資料(PDF)で確かめてください。派遣支援では厚生労働省『陸上貨物運送事業・倉庫業における派遣労働者に係る安全衛生管理マニュアル』(2010年)も参照し、業務範囲、教育、監督、安全管理を派遣元と受け入れ側で擦り合わせてください。
繁忙期の前に、何を試しておけばよい?
本番前に、繁忙期に近い注文構成と投入時刻で小さく試します。結果を基に、配置と資源の準備状況、当日の警戒ラインを確定します。
事前試行で完成させるもの
- 時間帯別の注文構成と工程別の必要時間
複数商品、ギフト、想定される例外も含めます。 - 担当者、応援範囲、判断者、休憩交代を記した配置表
新任者が単独で判断する前提にはしません。 - 作業台、機器、資材、仮置き場所、通路の点検結果
- 例外対応の窓口、変更受付の締切、承認者、連絡方法
- 滞留の警戒ライン、初動、責任者、報告先
試行結果と現場の引き渡し条件から定めます。
次の表は警戒ラインの枠組みです。「例」とある数値はそのまま使わず、試行結果に置き換えてください。
| 指標 | 見る間隔 | 現場で定める警戒ライン | 責任者 | 初動 | 報告先 |
|---|---|---|---|---|---|
| 梱包滞留 | 30分ごと(例) | 梱包待ちが2回連続で試行時の上限(例:40件)を超える | 現場リーダー | 設備・資材・検品待ちの有無を見て、承認済みの応援を配置 | 倉庫責任者 |
| 集荷までの残作業 | 各締め時刻 | 出荷準備完了予定に対して処理見込みが不足 | 出荷責任者 | 優先注文を保護し、後回し可能な例外対応を止める | 運営責任者・関係部門 |
| 補充待ち | 30分ごと(例) | 補充待ちが2回連続で試行時の最大値を超える | 補充責任者 | 補充担当を配置し、頻出商品の在庫を調べる | 倉庫責任者 |
| 送り状・システム停止 | 発生時と定時 | 停止が繰り返され、滞留が増える | システム連絡担当 | 承認済みの代替端末や復旧手順へ切り替える | システム担当・運営責任者 |
| 誤り・手戻り | 定時 | 試行時の許容範囲を超えるか、同じ原因が続く | 品質担当 | 該当工程を減速し、指示や荷物の分離方法を修正 | 倉庫責任者 |
| 安全・疲労・混雑 | 常時観察と定時 | 危険、過度な疲労、通路阻害がある | 安全担当 | 作業を止めるか安全な配置へ変更し、休憩を確保 | 安全管理責任者 |
警戒ラインは、試行結果、安全な処理能力、最新の引き渡し条件に合わせて定めます。他の倉庫の数値は流用せず、集荷条件も契約先へ確認してください。
試行後は、現場の担当者にも「急いだために省いた作業はなかったか」「待っていたが記録できなかった時間はないか」を聞きます。数字だけでは見えない無理があれば、その配置を本番の標準にはしません。普段より経験の浅い担当者が入る日も想定して、質問先と相談できる時間を確保しておきましょう。
まとめ:繁忙期の増員は、何を基準に決める?
繁忙期の増員は、工程別・時間帯別の作業量と滞留を測り、待ちや手戻りを減らしてから判断します。習熟した人員を再配置し、設備と安全条件を満たしても残る不足だけに応援を充てることが基本です。まずは次の繁忙期の前に、滞留しやすい3時間だけでも「記録するもの」の表にある項目を記録することから始めてください。
